それぞれの終わり

【それぞれの終わり始まり】ケース1

1. 出会いと共有した未来

二人は、掲示板でのやり取りをきっかけに出会った。恋愛感情ではない形で「家族をつくる」こと、特に子どもを育てたいというビジョンを共有し、友情結婚を選んだ。登山に出かけて未来の名前を冗談交じりに出し合ったり、映画を一緒に観ながらささやかな日常を築く。その時間は、まるで互いにとって安心できる拠り所のようだった。

ユウトさんにとって、同性に対する感情と「家族を持ちたい」という希望を両立させる選択だった。ミキさんは、配偶者との信頼と透明性を前提とした「ただの結婚」として、それを真摯に受け止めていた。最初に交わした約束の多くは言葉にしなくてもお互いの中に存在していたはずだった

2. ズレは小さく始まった

数ヶ月が経つと、その共通認識に微妙なズレが生じ始めた。ユウトさんは「友情結婚の中で外の人と関係を持つことは許容される自由」だと考え、外部にパートナーを作り、夜遅くまで連絡を取り合う時間が増えていった。彼にとってそれは感情の補完であり、家の外でのやり取りが家庭の安定と矛盾しないと信じていた。

一方のミキさんは、配偶者が親密な関係を外に持つことを浮気と捉えた。

「友情結婚だから自由」という言葉の奥で何が許され、何が共有されるべきかの線引きがされていなかった。説明のない帰宅の遅れ、不自然に隠すような振る舞い、見慣れない名前の通知。それらの積み重ねが、ミキさんの中に不安と疑念を育てていった。

話し合いを試みても、言葉はすれ違った。「自由」と「裏切り」の境界がどこにあるのか、二人の間で定義が共有されていなかった。互いに自分の立場を正当化しようとするうちに、最初にあったゆるやかな共通のリズムが崩れ始めた。

3. 家族の介入と奈落への転がり

ズレが深まり、事態は外へ波及した。

ミキさんの両親が介入し、家の内外の会話が公の場のようになるなかで、ユウトさんは義両親に友情結婚の形を説明せざるを得なかった。
自分がゲイであること、ミキさんがそれを承知のうえでアセクシャルで恋愛感情を前提としない関係を選んだこと、外で親しい相手を持つことを裏切りとは考えていなかったことを伝えた。

しかし義両親はアセクシャルという概念を理解せず、「恋愛ができないなんてあり得ない」「娘を騙した」と非難し、ユウトさんの性的指向も疑いの目にさらされた。理解ではなく攻撃が日常となり、家は逃げ場ではなく圧力の場になっていった。

精神的な負荷でユウトさんは躁うつのような状態に陥り、仕事もうまくいかず、自己肯定感を失い、虚無に振り回されるようになった。ミキさんは自分の境界を保ちながらも、信頼が崩れていくのを見続け、関係は修復ではなく消耗へと傾いていった。

4. 離婚調停という選択

結婚から4ヶ月、折り合いはつかず、ユウトさんは自らの責任を認めて慰謝料を支払いながら離婚調停を申し立てた。

表向き「別々の道を選ぶ」ことで合意したように見えたが、最後の最後までミキさんやその家族から責めの言葉は途切れず、彼の謝意や説明は重ねて否定され続けた。描いていた未来は途切れ、終わりは静かに見えて冷たく、ユウトさんの心には責められ続けた記憶だけが深く残った。

終わりに:友情結婚で大事なこと

友情結婚のような関係を選ぶときは、何を「自由」とし、何を「共有」にするのかを最初に言語化しておくことが重要です。

このケースでは、結婚後に外でパートナーを持つことについてのすり合わせが行われておらず、「友情結婚=自由」という言葉が先行した結果、こうした事態を招いています。
こうした自体を防ぐためにも結婚後に外でパートナーを持つことは有りなのかを、あらかじめ婚前契約書を作るなどして合意内容を明文化しておくことが有効です。

補足

本稿はユウトさんから聞いた話をもとに再構成したもので、ほかの当事者の視点や独立した検証は含まれていません。
また、プライバシー保護のために名称や状況の一部を変更し、時間軸や対話の細部には一定の脚色(フェイク)を加えています。
内容には事実と異なる部分が含まれる可能性があることをあらかじめご了承ください。

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